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【パラリンピック競技番外編】高桑早生選手が海外で見る、日常に根付くパラスポーツの光景とは

東京2020パラリンピック競技大会まで残り1年を過ぎ、パラスポーツへの注目が一層集まっています。今回、日本代表として長年活躍するパラアスリート、高桑早生選手(陸上・慶應義塾大学卒)から、世界有数のパラスポーツ王国・英国などで感じた、パラスポーツを取り巻く環境や意識の違い、その変容の歴史、東京2020大会への期待について、お話を伺いました。

長年見てきたパラリンピックから感じる、環境変化

(高桑選手)
「パラリンピックは北京2008大会の頃から、大きく変わり始めています。そして、その発祥の地という自負がある英国は、ロンドン2012大会で大成功を収めました。日本でも、もっともっとパラスポーツを楽しんで欲しいです」

こう話す高桑選手はロンドン2012大会、リオ2016大会に出場。初出場のロンドン2012大会では、T44クラスで100m7位、200m7位入賞を果たしました。「ビギナーズラックです」と謙遜されていますが、続くリオ2016大会でも、100m8位、200m7位と同水準を維持しつつ、走り幅跳びでも5位と好成績を記録。

(高桑選手)
「私は、北京2008大会の頃から、パラ陸上に取り組み始めました。その頃は、ちょうどパラスポーツの過渡期と言えるタイミングで、取り巻く状況が徐々に変わってきていました。それ以前はパラスポーツはリハビリの一環と考えられていた時代もあり、遠征も自費で参加するなど、先輩方は本当に苦労されたそうです。2014年韓国のインチョンアジア大会からは、それまでパラアスリートが使えなかったマルチサポートハウスが使えるようになりました。マルチサポートハウスとは、選手村外に設置された施設で、食事やコンディション作りなど選手団へのさまざまなサポートを行なうためのものです。
また、少しずつですが試合もテレビ中継されるようになり、報道も増え始めました。変容していく過程を、当事者として実感してきました。
今や、私たちも『トップアスリート』と呼んでもらえるようになり、パラアスリート採用を行う企業もでてきています」

英国パラスポーツを支える、“人のバリアフリー”

「英国はすごいです。パラスポーツ発祥の地の自覚からか、本当にパラスポーツが盛んですし、ボランティアの皆さんなど周りの盛り上げも素晴らしいです。英国にいると、自分たちがパラアスリートであることを誇りに思えます」

興奮気味にこう話す高桑さん。ただ、実際に見たロンドンの街は、石畳が多く、決してパラアスリートにとって受け入れ体制が万全な訳ではなかったそうです。主要な移動手段は地下鉄、複雑な構造の建物でブラインド(視覚障害)の選手が苦労したケースも。それでも、英国のみならず欧米では、街を歩いている人々が、誰かしら声をかけてくれて、助けてくれる雰囲気が漂っているとのことです。

(高桑選手)
「今年出場したワールドパラアスレティクス グランプリ パリ大会の時に驚いたのは、赤ちゃん連れの若いお母さんが、私に対して『あなた、ちょっとこれ持っていてくださる?』って、普通に会話するような感覚で、サポートを求めてくるのです。不自由がある側から、当たり前のように、手を貸して欲しい、と。日本でも最近は手を貸せる側からの声掛けは増えてきましたが、“人のバリアフリー”とも言えるようなこのような空気感はまだまだないですよね。」

また、2017年にロンドンで開催された、世界パラ陸上競技選手権大会では、さまざまな工夫が施されました。

(高桑選手)
「通常なら、健常者の大会の後にパラの大会が開催されますが、この大会では、初めてパラの大会が先に開催され、その後、健常者の大会という順番で行われました。これは、実に画期的なことでした。パラの大会で大いに沸き返って、そのままの勢いでバトンタッチする。もちろん大成功でした」

また、この大会は、ロンドンの学校プログラムにも組み込まれ、子供たちや学生の入場料はわずか3ポンド。破格で観戦することができるだけでなく、付き添いの教師や親の入場料、大会に向かう彼らの交通費も無料となりました。

(高桑選手)
「とにかく観客席にいる人が、どこもかしこもとても楽しそうに大会を観戦していました。例えば、子供たちが、何とか引率の先生を場内のオーロラビジョンに映し出させようと、大いに盛り上げるなどといったシーンもあり、その様子を見ていると、こちらもとても嬉しくなります。」

英国のパラスポーツボランティアやファンからは、「パラスポーツはカッコよくて、とても面白いもの。器具を使って、従来のスポーツと異なる何かを見せてくれる」と教えられ、期待感で胸を膨らませていることがよく分かったそうです。

東京2020大会を通じて日本を知ってもらいたい

高桑選手は英国とも縁があり、母校である慶應義塾大学日吉キャンパスが英国代表チーム事前キャンプ施設の一つとなったことも、喜んでいます。また自身も、現在慶應義塾大学日吉キャンパスのグラウンドや施設を使って、毎日練習にはげんでいます。

高桑選手には、英国に限らず海外出身のアスリートの友人が大勢いるそうです。彼らが東京2020大会に期待することについて、高桑選手はこう語りました。

(高桑選手)
「彼らにとって日本はまだまだ未知の国で、東京2020大会のパラアスリートの受け入れ体制がどうなっているかということよりも、もっと日本そのものについて知りたいと考えているようです。私で教えられることであれば、何でもお手伝いしていきたいと考えています。今年開催するラグビーワールドカップでも海外からアスリートが多く訪れるので、良いお手本になるかもしれませんね」

いかがでしたでしょうか。
高桑選手が英国で見てきた、日常に根付くパラスポーツ、そしてパラアスリートが自信と誇りを胸に競技に臨める “人のバリアフリー”。日本でも、メディアによる番組や報道、各種イベントを通じて、パラスポーツが盛り上がりを見せています。東京2020大会に向けて、私たち1人1人の意識や行動を見直してみることが、国内外のパラアスリートを温かく迎えることにつながり、彼らにとっての心の支えとなるのかもしれません。

高桑早生(たかくわ・さき)プロフィール

NTT東日本所属。1992年5月26日埼玉県生まれ。小学6年の冬に骨肉腫を発症。中学1年の6月に左足ヒザ下を切断。東京成徳大深谷高校陸上部、卒業後、慶應義塾大学総合政策学部入学、体育会競走部入部。数々の輝かしい戦績を持つ。

  • ロンドン2012大会:100メートル、200メートルともに7位入賞
  • リオ2016大会:女子走り幅跳び 5位、女子200m7位、女子100m 8位
  • インチョン2014アジアパラ競技大会(韓国): 女子100m 3位
  • 2015 カタールIPC陸上競技世界選手権:女子走り幅跳び 3位
  • 2017 世界パラ陸上競技選手権大会(英国):女子走り幅跳び(T44) 5位

取材: GOGBコラム担当ライター:神津伸子
撮影: GOGBコラム担当カメラマン:山本美賢